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千葉地方裁判所 平成2年(行ク)1号 決定 1990年6月08日

申立人 三里塚芝山連合空港反対同盟

被申立人 運輸大臣

主文

本件申立てを却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

第一申立ての趣旨及び理由

本件申立ての趣旨及び理由は、別紙執行停止決定申立書、執行停止決定申立補充書(一)、執行停止決定申立補充書(二)のとおりであり、これに対する被申立人の意見は同意見書(一)、意見書(二)、意見書(三)のとおりである。

第二当裁判所の判断

一  本件措置の存在

本件疎明資料によれば、平成二年一月一六日、被申立人が、新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(以下「緊急措置法」という。)三条六項に基づき、千葉県成田市天神峰字南台四二番三に所在する鉄骨造三階建、一部木造平屋建の建築物一棟並びにこれらに附属する工作物(通称「天神峰現地闘争本部」。以下「本件工作物」という。)を封鎖した(以下この処分を「本件措置」という。)ことが認められる。

二  申立人主張の違法事由に対する判断

申立人は、本件措置の効力を停止すべき事由として、本件措置の違法事由を詳細に主張する。そこで、まず本件措置が行政事件訴訟法二五条三項にいう、「本案について理由がないとみえるとき」に該当するか否かを判断するに当たり、右違法事由を順次検討する。

1  緊急措置法の憲法不適合の主張に対する判断

(一) 緊急措置法が法令全体として違憲無効であるとの主張について

(1) 緊急措置法制定の経緯

本件疎明資料及び公知の事実によれば、次の事実が認められる。

新東京国際空港(以下「新空港」という。)は、航空輸送の進展に対処し、諸外国との政治的、経済的、文化的な交流の維持促進による我が国の国際的地位の向上に貢献することを目的として昭和四一年七月四日の閣議決定によりその建設が決定されたものであるが、同年一二月一二日に策定された基本計画によれば、おおむね昭和四五年度末までに、四〇〇〇メートル級の長さの滑走路及びこれに対応する諸施設の工事完成を予定し、昭和四八年度末を目途として、面積一〇六〇ヘクタールに滑走路三本及び諸施設による空港を完成させるものとされていた。しかし、用地取得問題や新空港建設反対運動等により開港は大幅に遅れ、被申立人は、昭和五二年一一月二八日、新空港の供用開始期日を昭和五三年三月三〇日とする旨の告示を行った。

戦旗・共産主義者同盟(以下「戦旗荒派」という。)、革命的共産主義者同盟全国委員会(以下「中核派」という。)、革命的労働者協会(以下「革労共」という。)、共産主義者同盟戦旗両川派(以下「戦旗両川派」という。)、日本革命主義者同盟(以下「第四インター」という。)、プロレタリア青年同盟全国協議会(以下「プロ青同」という。)等の集団は、新空港周辺地域において、いわゆる「団結小屋」、「団結砦」等と称される工作物を設置し、これらをその拠点として新空港建設反対運動を展開し、右供用開始期日の直前である昭和五三年三月二六日には、第四インター、プロ青同等に所属する約五〇〇名が、新空港内に火炎車を突入させるとともに同空港内に乱入して火炎瓶を投げるなどした上、更に同空港の中枢部である管制塔内にも乱入して管制機器を破壊し、空港の機能を失わせた(いわゆる管制塔乱入事件)。このため、新空港の開港は延期のやむなきに至り、被申立人は、昭和五三年四月七日、改めて新空港の供用開始期日を同年五月二〇日とする旨の告示を行った。

このような事態に対し、政府は昭和五三年三月二八日、「新東京国際空港の開港が極左暴力集団の破壊行為により、一時延期のやむなきに至ったことは極めて遺憾である。このような暴挙は、単なる地元一部農民による反対運動とは全く異質のもので、法と秩序の破壊であり、民主主義体制そのものに対する重大な挑戦であって、断じて許すことはできない。政府は、この際極左暴力集団の徹底的検挙・取締りのため断固たる措置をとることとし、開港後を含めた長期警備体制の一層の強化を図るとともに、管制塔をはじめ空港を不法な暴力から完全に防衛するため更に空港施設の整備を図る等各般にわたる根本的対策を強力に押し進める決意である。国民各位をはじめ広く内外関係者の御理解と御協力をお願いする。」旨の声明を発し、また、衆議院は同年四月六日全会一致で、参議院は同月一〇日全党一致で、「去る三月二六日の成田新東京国際空港における過激派集団の空港諸施設に対する破壊行動は、明らかに法治国家への挑戦であり、平和と民主主義の名において許し得ざる暴挙である。よって、政府は毅然たる態度をもって事態の収拾に当たり、再びかかる不祥事をひき起こさざるよう暴力排除に断固たる処置をとるとともに、地元住民の理解と協力を得るよう一段の努力を傾注すべきである。なお、政府は、新空港の平穏と安全を確保し、我が国内外の信用回復のため万全の諸施策を強力に推進すべきである。」旨の「新東京国際空港問題に関する決議」をそれぞれ採択した。

緊急措置法は、このような異常な事態に対処するために、新空港若しくはその機能に関連する施設の設置若しくは管理を阻害し、又は、新空港若しくはその周辺における航空機の航行を阻害する暴力を手段とする破壊活動を防止するため、その活動の用に供される工作物の使用禁止等の措置を定め、もって新空港及びその機能に関連する施設の設置及び管理の安全の確保を図るとともに、航空の安全に資することを目的として、議員提案により成立したものである。

(2) 新空港の特殊性及び安全確保の必要性

新空港に対する航空輸送の需要は年を追うにつれ増加し、昭和五三年度では、航空機発着回数、航空旅客数、航空貨物量は、それぞれ約五万五千回、約六三九万人、約三三万トンであったものが、昭和六二年度では、それぞれ約九万五千回、約一五〇五万人、約一〇六万トンに達し、昭和六三年三月には開港以来の利用者数は一億人を超えている。

ところで、管制塔乱入事件に象徴的にみられるような新空港及びその機能に関連する施設の設置及び管理並びに航空機の航行等を暴力を用いて破壊又は阻害する行為は、一挙に多数人を高密度かつ高速で輸送する航空輸送の現況に照らして、多数の人々の生命、身体、財産及び公共の財産に直接かつ重大な損害を与えるものであることはもとよりのこと、今日新空港に対し、増大の一途をたどる航空輸送需要への適切な対応をも阻害し、ひいては国民生活や国際関係に対し重大な悪影響を与えかねないものである。

そうすると、このような暴力をもってする破壊又は阻害行為に対処し、前記のような損害の発生を未然に防止するために新空港及びその関連施設の設置及び管理の安全を図り、航空の安全を維持しそれに資することは公共の福祉の強く要請するところである。

(3) 緊急措置法の定める供用禁止命令、封鎖措置等の要件とその明確性

緊急措置法三条一項一号は、運輸大臣は、規制区域〔同法二条三項において、<1>新空港の範囲内の区域及びその範囲の外側三千メートルの線までの区域、<2>新空港における航空機の離陸若しくは着陸の安全を確保するために必要な航空保安施設又は新空港の機能を確保するために必要な施設のうち、政令で定めるものから三千メートルの範囲内で政令で定める区域(但し、現在右政令は定められていない。)と規定されている。〕内に所在する工作物が、多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供され、又は供されるおそれがあると認めるときは、当該工作物の所有者、管理者又は占有者に対して、期限を付して、当該工作物をその用に供することを禁止することを命ずることができる旨定め(以下右命令を「供用禁止命令」という。)、更に同法同条六項は、運輸大臣は、右供用禁止命令に係る工作物が当該命令に違反して多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されていると認めるときは、当該工作物について封鎖その他その用に供させないために必要な措置を講ずることができる旨規定する(以下右措置を「封鎖措置等」という。)。

緊急措置法は、右「暴力主義的破壊活動者」については、同法二条二項において「暴力主義的破壊活動等を行い、又は行うおそれがあると認められる者」と定義し、「暴力主義的破壊活動等」については、同法一項において、<1>新空港の設置若しくは管理の阻害、<2>新空港における航空機の離着陸の安全を確保するために必要な航空保安施設の設置若しくは管理の阻害、<3>新空港の機能を確保するために必要な施設のうち政令で定めるものの設置若しくは管理の阻害(但し、現在右政令は定められていない)、<4>新空港若しくはその周辺における航空機の航行の妨害のいずれかに該当する同項各号該当行為(いずれも刑法その他刑罰法規に規定する犯罪行為)の一をすることと定義している。

このように、「暴力主義的破壊活動等」は、種々の行為を含む広い概念ではあるが、前記(一)の(1)及び(2)に詳述した緊急措置法の制定の経緯、その目的及び公共性に照らすと、このような概念を設定することには十分な合理性があるというべきであり、また、要件が不明確であるとはいえない。そして、「暴力主義的破壊活動等を行うおそれ」、「用に供されるおそれ」についても、具体的事実関係に照らし、このような行為を行う蓋然性が高いことを指称するものと解すべきであるから、これらもまた不明確な概念であるとはいえない。

(4) 結論

以上検討したとおり、緊急措置法は、管制塔乱入事件に象徴されるような新空港とその機能に関連する施設の設置、管理を阻害し、又は航空機の航行を妨害する破壊活動を防止するという公共の安全を確保するために制定された特殊緊急な法律であって、その基本とする概念も不明確であるとはいえない。

従って、緊急措置法が全体として違憲無効であるとの申立人の主張は採用できない。

(二) 憲法二一条一項(集会の自由の保障)に違反するとの主張について

供用禁止命令及び封鎖措置等は、当該工作物を集会の用に供することを制限する結果となるものであるが、集会の自由といえども全く無制限のものではなく、公共の福祉に反する場合には合理的な範囲内において制限することが許されないものではない。前記判示のとおり、新空港及びその機能に関連する施設の設置及び管理並びに航空の安全の確保を図ることは公共の福祉が強く要請するところであり、前記認定の緊急措置法制定の経緯並びに今日に至るまでの状況に照らして、これらの安全を阻害若しくは妨害する行為を規制する高度の必要性があることは明白である。供用禁止命令及び封鎖措置等は、右のような行為を避けるための手段として必要にして、止むを得ないものであると認められるから、申立人の主張は理由がないというべきである。

(三) 憲法二二条一項(居住の自由)に違反するとの主張について

供用禁止命令及び封鎖措置等は、当該工作物における居住の自由を制限する結果となるものであるが、右制限は公共の福祉からの要請上止むを得ない制限であって、これをもって憲法に違反するといえないことは前項において述べたところと同様である。

(四) 憲法二九条一項、二項(財産権の保障)に違反するとの主張について

(1) 供用禁止命令、封鎖措置等による財産権の制限には合理的理由がなく、封鎖措置等は第三者の法令違反を理由とする財産権侵害として憲法二九条に違反するとの主張について

公共の福祉の要請から財産権の行使について法律により合理的な規制を加えることは憲法が当然に容認しているところである。供用禁止命令及び封鎖措置等は、前記判示のとおり、新空港等の安全の確保を図るための必要かつ止むを得ないものであるから、申立人の右主張は理由がない。

(2) 緊急措置法は不明確な要件の認定を被申立人に包括的に委任するもので、憲法二九条二項の「法律による定め」とはいえないとの主張について

「暴力主義的破壊活動(者)」、「供されるおそれ」との要件が、明確性を欠くとはいえないことは前記(一)の(3)に判示のとおりであり、申立人の主張は理由がない。

(五) 憲法三一条(法定手続の保障)に違反するとの主張について

(1) 緊急措置法が、財産権等に対する侵害処分について告知、弁解、防御の機会を与える規定を欠く点で憲法三一条に違反するとの主張について

憲法三一条の法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続においてもできる限りその精神が尊重されるべきである。しかし、刑事手続と行政手続とはその目的、性質及び効力等において差異があり、行政手続は、行政処分の目的、緊急性、処分要件の明白性、当該処分によって制約を受ける国民の権利の内容や制約の程度、態様等に照らし、必要にして合理的、かつ、相当な手続を踏めば足り、すべての行政手続につき事前に告知、弁解、防御の機会の付与等の手続を保障することが絶対的に要請されるものではない。

供用禁止命令及び封鎖措置等は、財産権を制限するものであるが、緊急措置法の前記目的及び要件に照らし、新空港及び周辺における異常事態に対処するために緊急の必要性があることを前提とするものであるから、このような行政処分の目的、緊急性等に徴すると、被処分者に告知、弁解、防御の機会が与えられないとしてもこのことが憲法三一条ないしその精神に違反するものとはいえない。

(2) 緊急措置法三条一項の規定が明確性を欠く点において憲法三一条に違反するとの主張について

同法三条一項の規定が明確性を欠くとはいえないことは、前記判示のとおりである。

(六) 憲法三五条(住居侵入・捜索等に対する保障)に違反するとの主張について

憲法三五条は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権の抑制の下におかれるべきことを保障したものであり、その精神はできる限り行政手続についても尊重されるべきである。しかし、行政手続において、裁判官の令状を必要とするか否かは、当該行政手続の目的の公共性、緊急性、その強制の程度、態様、被立入者の受けるべき不利益の内容等の諸点を総合勘案して決せられるべきものであり、この観点からすると、供用禁止命令の発せられた工作物に緊急措置法三条三項の規定に基づいて立入るのに裁判官の令状を必要とするとまでは解しがたい。そして、同条四項が右立入りに際し身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならないと定め、同条五項で右立入りの権限は犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないとの規定を設けていることをも斟酌すると、緊急措置法三条一項、三項が憲法三五条ないしその精神に反するものとはいえない。

2  本件措置が違法であるとの主張に対する判断

(一) 本件措置の前提処分たる供用禁止命令は緊急措置法三条一項一号の「多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供され、又は供されるおそれがあると認めるとき」の要件を充足しないとの主張について

(1) 供用禁止命令と封鎖措置等との関係

緊急措置法三条六項の規定によると、封鎖措置等は、当該工作物について供用禁止命令が存在し、かつ、当該工作物が右命令に違反して供用されていることを要件とするものである。しかし、供用禁止命令と封鎖措置等とは、緊急措置法三条一項及び同条六項の規定から明らかなとおり、それぞれその要件を異にする別個独立の処分であるから、仮に右供用禁止命令に瑕疵があるとしても、瑕疵が重大かつ明白であって、供用禁止命令が当然無効である場合を除いては、封鎖措置等の取消原因とはならないものというべきである。

(2) 本件供用禁止命令の存在

本件疎明資料によると、被申立人は、平成元年九月一九日、本件工作物の所有者、管理者及び占有者に対し、本件工作物は緊急措置法三条一項一号の用に供されるおそれがあるとして、同項の規定に基づき、平成二年九月一八日までの間、本件工作物を同項一号の用に供することの禁止を命じたこと(以下「本件供用禁止命令」という。)、次いで被申立人は、本件工作物が右命令に違反して同項一号の用に供されていると認定した上、冒頭に記載したとおり平成二年一月一六日、同法同条六項の規定に基づき、本件措置を行ったものであることがそれぞれ認められる。

(3) 本件供用禁止命令の有効性

本件疎明資料によると、本件工作物は、緊急措置法二条三項に定める規制区域内である千葉県成田市天神峰字南台四二番三の土地上に所在し、昭和四一年、申立人同盟員らによって、新空港建設反対運動の拠点として建設されたこと、本件工作物には、昭和四三年二月以降中核派構成員が常駐を開始し、以後、新空港建設に反対する中核派等の集団に所属する者が多数出入りしていたこと、中核派、革労協、戦旗両川派等の集団は、昭和五三年五月二〇日の新空港の供用開始以後も、新空港第二期工事実力阻止、新空港の廃港化を闘争方針として宣明し、前同日以降平成元年末までのこれら集団の活動状況の概要は、被申立人の意見書(一)に添付の別表1記載のとおりであること、中核派等前記集団は、右意見書に添付の別表2記載のとおり、その機関紙において、このような闘争活動を継続する意思を表明し、また、中核派においては、本件工作物を引き続きその集合の用に供する意思をも表明していたことの各事実を認めることができる。

このように、中核派等前記各集団の新空港に関する反対闘争は、言論活動による反対運動の域を遙かに越えており、前記別表1に見られる活動(犯行)は、これら集団の組織的活動の一環として実行されているものであるというほかはない(以下、このような闘争方針を標榜し、組織として右のような活動を実行する中核派、革労協、戦旗両川派等の集団を「過激派集団」ともいう。)。

以上認定の事実によれば、被申立人が、本件工作物が多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されるおそれがあるとして本件供用禁止命令を発したことに重大かつ明白な瑕疵があるとは認められない。

(4) 結論

よって、本件供用禁止命令は有効に存在していたものと認められるから、本件供用禁止命令が法定の要件を充足しないことを理由とする申立人の主張は採用できない。

(二) 本件措置が緊急措置法三条六項に定める「供用禁止命令に違反して、多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供された」との要件を充足しないとの主張について

(1) 中核派等過激派集団の活動状況等

昭和五三年五月二〇日以降の中核派等過激派集団の闘争方針の宣明及び活動状況の概要は、前記(一)(3)に認定のとおりである。

本件疎明資料によれば、中核派は、本件供用禁止命令が発せられた平成元年九月一九日以降も、その機関紙において、「天神峰現闘本部をはじめとする団結小屋を、何がなんでも守りぬく。革命軍のゲリラ攻撃の標的は、権力機関、二期工事に手を貸す一切のものにたいして無制限・無制約である。」、「団結小屋実力阻止戦闘を徹頭徹尾たたかいぬく。団結小屋への破壊攻撃に対しては、最大級の報復の鉄槌を加える。」、「すべての二期工事は破壊の対象であり、また二期工事のあらゆる推進者、協力者は、農民圧殺の共犯者として処断されることを警告する。」等の意思表明を行い、平成元年一一月一六日に千葉県議会事務局次長宅に、同年一二月七日に千葉県企画部新産業三角構想推進室主幹宅に、それぞれ時限発火装置を設置して全焼させるなどの右意思表明に沿った行動を行ったことが認められる。

なお、過激派集団の機関紙等によるこれら意思表明について、申立人は、これを単なる象徴的、政治的表現に過ぎないものである旨主張するが、過激派集団の活動状況の概要に関する前記認定の事実に照らすと、右意思表明が単なる象徴的、政治的表現に止まるものとはいえないことは明白である。

(2) 本件工作物の構造及び位置関係等

本件工作物は、新空港B滑走路建設予定地直近の成田市天神峰南台四二番三(地積六七平方メートル)の土地上に所在し、間口約七・六メートル、奥行約七・七メートル、高さ約九・七メートル、建坪約五七坪の鉄骨造三階建の建物であり、外壁には波板鉄板が使用され、一階に出入口が三か所あり、屋上にも出入口があり、二、三階には窓が各階四か所ある。

本件工作物の周囲は三方向においてパイプ棚で囲まれ、残る東側は直ちに幅員約三ないし四メートルの道路(通称団結街道)に接しており、従って本件工作物に付随して中庭等空地は存在しない。

(3) 本件供用禁止命令以後の過激派集団構成員らによる本件工作物の使用状況

本件疎明資料によると次の各事実が認められる。

ア 被申立人が、平成元年九月一九日に本件供用禁止命令を発した後も平成二年一月六日現在に至るまで本件工作物には中核派構成員三名(いずれも新空港反対運動に係わる刑事事件につき前科前歴がある。)が常駐を続けていた外、平成元年九月二二日から同年一一月三〇日までの間に、中核派九名、蜂起派一名、蜂起派と見られる者二名、戦旗両川派一名、革労協一名の合計一四名(前記常駐者を含む。うち、九名は新空港反対運動に係わる刑事事件につき前科前歴がある。)が本件工作物に出入りしていた。

申立人は、平成元年一月一一日、本件工作物は反対同盟だけで守り抜くとの声明を発し、中核派構成員の常駐は休止されたが、同月一一、一二日の両日には、中核派三名、蜂起派一名、蜂起派と見られる者二名、戦旗両川派二名、革労協狭間派二名の合計一〇名が本件工作物に出入りしていた。また、同月一三、一四日の両日には、中核派一八名、蜂起派一名、蜂起派と見られる者二名、戦旗両川派一名、革労協狭間派一名の合計二三名(うち一四名は新空港反対運動に係わる刑事事件につき前科前歴がある。)が本件工作物に出入りしていた。

イ 平成元年九月二三日、申立人主催の集会(成田治安法粉砕・二期工事阻止緊急弾劾集会)が本件工作物前路上で開催され、参加者数は最盛時において約一六〇名(うち、中核派約五〇名、革労協狭間派約三〇名、戦旗両川派約五〇名)であった。

右集会において「一〇月三日、県庁を包囲、議場に突入・占拠を実行し、収用委員会解体再任命阻止を勝ちとる。」、「敵は、団結小屋には成田治安法を、農民の土地には代執行を行い、三里塚闘争の破壊をもくろんでいる。我々は、八七年五五時間の木の根団結砦の闘いを引継ぎ、実力闘争で闘い抜く。」等の発言がなされた。

右集会後、約一三五名が本件工作物を起点及び終点とする全長約六・九キロメートルのデモ行進を行ったが、右デモ参加者の約九割は、ヘルメットを着装し、旗竿を所持していた。

右集会、デモに参加した者のうち二〇名の人定が確認されているが、この中に新空港反対運動に係わる刑事事件につき前科前歴がある者九名のほか前記本件工作物の常駐者及び本件工作物に出入りしていた者が含まれている。

ウ 同年一二月一七日、申立人主催の集会(成田治安法攻撃粉砕・収用委員再任命阻止、事業認定期限切れ、一二・一七現地集会)が本件工作物内で開催され、参加者は最盛時において約三〇〇名(うち、中核派約九〇名、革労協狭間派約六〇名、戦旗両川派約四〇名、蜂起派約一四名)であった。右は屋内集会であったことから、会場に入れなかった参加者約一〇〇名は、本件工作物屋上及び本件工作物前路上において、各セクトごとに小集会を行い、シュプレヒコールを実施した。

右集会においては、「昨日をもって事業認定が失効したにもかかわらず、権力は強引に工事を強行している。我々は、武装闘争・実力闘争で粉砕する。」、「天神峰現地闘争本部に攻撃を仕掛けるなら、死ぬ覚悟で来い。機動隊をせん滅してやる。」等の発言がなされた。

右集会後、約二八〇名が本件工作物を起点及び終点とする全長約三キロメートルのデモ行進を行ったが、右デモ参加者の約九割がヘルメットを着装していた。

右集会、デモに参加した者のうち、四六名の人定が確認されているが、この中に新空港反対運動に係わる刑事事件につき前科前歴がある者が二六名おり、また、前記本件工作物の常駐者及び本件工作物に出入りしていた者が含まれている。

エ 平成二年一月一四日午前八時過ぎころから、中核派構成員を代表者とする三里塚闘争支援連絡会議が、本件工作物前路上において「二期工事実力阻止、成田治安法粉砕」を目的として集会を開催し、中核派七名、革労協狭間派二九名、戦旗両川派一二名、蜂起派五名の合計五三名が参加した。右集会中及びその前後において、中核派構成員等少なくとも八名が本件工作物に出入りしており、これらの者は本件工作物の東側(道路側)窓や屋上から姿を現してその直下にいる数十名の集団に参集していると目される行動をとり、又は、本件工作物を出て右集団と合流するなどしていた。

右集会において、「我々は、日帝の成田治安法攻撃を徹底的に弾劾していく。また、反対同盟と支援の分断化攻撃を許さず反対同盟とガッチリと結合し闘っていく。」、「我々は、反対同盟とともに闘い、天神峰現地闘争本部を死守する。」等の発言がなされた。

右集会後、三六名が本件工作物を起点及び終点とする全長約三キロメートルのデモ行進を行った。

同日午前一〇時三〇分ころから、申立人は、本件工作物の内外に最盛時において約二四〇名(うち、中核派三四名、革労協一三名、戦旗両川派一三名、蜂起派五名が確認されている。)を集めて団結旗開きを開催した。

(4) 本件工作物の申立人らの使用状況等

本件疎明資料によれば、申立人は、本件工作物を申立人の本部事務所として管理し、日直当番を置き、申立人の日常業務や各種集会等に使用してきたことが認められるが、右事実は、前記(3)認定の事実と相反するものではなく、右事実があるからといって、前記(3)の認定を覆すに足りるものではない。

また、本件疎明資料によると、平成元年一月九日、被申立人が本件工作物を緊急措置法により封鎖、除去する方針を固めたとの報道がなされ、申立人が同月一一日、本件工作物は同盟員の独力で守り抜くとの声明を出したこと、その後、申立人が本件工作物の日直体制を強化したことが認められるが、右事実もまた、前述したところと同様の理由により、前記(3)の認定を覆すに足りるものではない。

更にまた、前記デモ行進について、千葉県公安委員会に事前の届出がされ、受理されていることと、本件工作物の使用状況とは関係がないから、この事実もまた前記(3)の認定を左右しない。

(5) 結論

以上(1)ないし(3)に認定の事実によれば、本件工作物は、本件供用禁止命令に違反して、多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されたものと認めるほかはない。

よって、本件措置は緊急措置法三条六項(同条一項一号)の要件を充足しているものといわなければならない。

(三) 本件措置が法の規定を上回る超過処分であるとの主張について

本件疎明資料によると、被申立人は、本件工作物全体を鉄板、鉄条網で囲い込むという方法で本件措置を行ったものであり、本件措置の結果、何人も、本件工作物を使用することができない状態になったことが認められる。

緊急措置法三条六項は、被申立人は、封鎖その他その用に供させないために必要な措置を講ずることができると規定する。ここに「封鎖」とは、人が当該工作物に出入りすることを物理的に不可能にすることであると解すべきである。従って、本件措置により本件工作物が何人の使用も不可能となるに至ったとしても、このことは法の予定するところである。そして、封鎖の具体的方法は、供用禁止命令に対する違反の態様その他諸般の状況を考慮して、運輸大臣が適宜の方法を採用できるものというべきところ、本件措置の具体的方法が、右運輸大臣に認められた裁量の範囲を越えていると認めるべき疎明もない。

従って、本件措置は緊急措置法の規定する態様のものであって、法の規定を上回る超過処分であるとする申立人の前記主張は理由がない。

(四) 被申立人が本件工作物内にある動産を押収したとの主張について

本件疎明資料によれば、被申立人は、本件措置により、本件工作物への出入りができなくなることから、運輸省職員をして申立人代表者に対し、「荷物については、こちらの方で段ボールに詰めて保管しておきますから、必要であれば公団の方に連絡していただければ所有者にお返しします。」と説明した上で本件工作物内にある動産を右工作物から搬出したこと、右動産は平成二年二月六日、申立人代理人に返還されたことがそれぞれ認められる。

右認定の事実によると申立人の主張は理由がない。

(五) 本件措置が違法捜査を手段として行われたとの主張について

本件疎明資料によれば、本件措置に先立ち、平成二年一月一五日午後二時三〇分頃から翌一六日午前六時二七分頃にかけて千葉県警察本部による捜索、差押及び検証がなされたことが認められる。

しかし、本件措置が、緊急措置法に定める要件を具備したものであることは前項までに判示したとおりであり、千葉県警察本部による捜索、差押及び検証は、刑事訴訟法上の強制処分であって、本件措置とは別個の要件のもとにされた全く別個の処分である。従って、右刑事訴訟法上の強制処分が本件措置に先立って行われたからといって、このことが直ちに本件措置の手段として行われたものであり、本件措置の違法原因となるものとはいえない。従って、申立人の主張は理由がない。

三  結論

以上検討したところからすれば、本件申立ては、行政事件訴訟法二五条三項にいう「本案について理由がないとみえるとき」に該当するというべきである。

よって、その余の点について判断するまでもなく、本件申立ては理由がないからこれを却下することとし、申立費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 清野寛甫 丸山昌一 内山梨枝子)

別紙執行停止決定申立書、処分目録、図面、執行停止決定申立補充書(一)、(二)、意見書(一)、(二)、(三)<省略>

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